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スポットライト・マラウイ:UHC達成と医療労働力確立に向けた様々な取り組み


ボマニーは、マラウイのとある村に暮らす13歳。サッカーが大好きな少年です。でも彼の夢は、プロのサッカー選手になることではありません。「人を助ける仕事がいい」と、彼はさらりと言います。「僕は警察官になりたいんだ。」

ボマニーが水くみをしたり、学校で模範的な生徒でいてくれることが家族の支えになっていると、彼の父親は話してくれました。水くみも、通学も、徒歩で往復1時間かかる道のりです。家族の誰かが具合が悪くなると、近くの診療所まで自転車で飛んで行くそうです。自転車でどのくらい走るのか尋ねると、2人は笑って答えます。「ずっと遠くまでだよ。」

何もかもが「遠い」国、マラウイ
人口の80パーセント以上が地方やへき地に住むマラウイでは、日々の生活のために長距離を歩くことが欠かせません。 数少ない医療センターは国内に点在し、十分な数のスタッフが働く施設はそのうちのわずか9パーセントと見られています。雨季には、移動が不可能になることもしばしばです。症状が悪化し、ブランタイアにあるクイーン・エリザベス中央病院に紹介されても、村人が実際に治療を受けるには多くの困難が伴います。
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マラウイでは、国民一人ひとりの健康状態は著しく改善しているにもかかわらず、妊産婦や新生児、小児の死亡率は依然として高く、HIV感染率が世界で最も高い国の一つです[1]。 熟練の医療従事者は不足しており、医療トレーニングや医療機器、医療用品も不足しています。世界保健機関(WHO)によれば、 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成には人口1,000人当たり少なくとも4.45人の熟練医療従事者が必要ですが[2]、マラウイの現状はわずか0.019人の医師と、0.283人の看護師・助産師がいるにすぎません。1800万人以上の人口に対して、600人の医師しかいないのです[3]

UHCとは、すべての人々が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを受けられることができる状態を意味します。その達成には、資格を有する医療従事者がそろった十分な医療体制が必要です。タケダのグローバルヘルス・イニシアティブとグローバルCSRイニシアティブは10年以上、UHCの達成に向け、疾病予防や、医療従事者向けの研修など能力開発の支援、医療アクセス向上などの活動を支援してきました。タケダがグローバルCSRプログラムとして支援する活動は、毎年タケダの従業員による投票で決定します。これまでには、シード・グローバルヘルス(Seed Global Health)やワールド・ビジョン(World Vision)をはじめ、サハラ以南のアフリカ諸国など世界各地における熟練医療従事者の不足の解消に努める様々なNGOや国際組織とパートナーシップを結んできました。

「水」が医療従事者を支える力に
2019年10月、タケダの従業員がマラウイを訪れて知ったのは、熟練医療労働力を確保しUHCを達成するのに必要な道筋がたくさんあるということでした。そのうちの1つが「水」です。

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「水道はときどき断水するので、助産師が清潔な水をいつでも使用できるよう、予備の水源となる貯水タンクを建設しているところです。お産はいつ始まるかわかりませんから」と話してくれたのは、シード・グローバルヘルスで助産師の指導を行っているキャサリン・ビーチです。彼女はマラウイの同僚とともに、クイーン・エリザベス中央病院にて、低リスク出産を目指した助産師主導の産科病棟の設立に向け、地元助産師たちを支援しています。

人口
1,850万人の国に1つだけの医学部
マラウイ国内にある医学部は1校のみ。その医学生や、国内に18ある看護学校に通う学生の教育訓練に特化した研修病院は存在せず、学生たちは医療研修を海外で受けます。ただし、研修にかかる費用は、公衆衛生関連の仕事で得られる給与でまかなえるものではありません。けれども、事態は変わりつつあります。シード・グローバルヘルスのような団体からの支援により、現在、マラウイ大学医学部に学ぶ家庭医療医たちは、国内で研修を受ける最初の学年を迎えます。

「南アフリカへ学生一人を派遣し研修させる費用で、国内なら3人を訓練できます」と、医学部長のムワパサ・ミパンド博士は言います。国内でより多くの学生を育成できれば、コストを削減できるとともに医療従事者不足が解消され、マラウイの人々がよりよい医療サービスを受けられるようになります。

未来への希望
マラウイ大学医学部では、医学部を独立した健康科学大学とし、学生用の研修病院を併設するという案をマラウイの国会に提出し、2019年に承認されました。今後、マラウイ国内での医療研修がぐっと身近なものになるでしょう。
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ミパンド学部長に今後の長期的な展望について尋ねると、目を輝かせて語ってくれました。「世界レベルの知見を持ち、かつ地元の事情に精通した、自国の医師がマラウイで誕生する、という新たな境地を目指しています。」

医療労働力を強化し、医療アクセスや医療研修をめぐる格差を解消することは、マラウイで、そして地球規模で喫緊の課題です。世界各地に存在する資源に乏しい地域でもUHCが達成されるよう、タケダはその実行を担う人材に投資し、尽力を続ける思いを新たにしています。



[1] Avert, Global information and education on HIV and AIDS, HIV and AIDS in Malawi(HIVとAIDSに関する世界の現状と教育、マラウイにおけるHIVとAIDS). リンク:
https://www.avert.org/professionals/hiv-around-world/sub-saharan-africa/malawi

[2] Health workforce requirements for universal health coverage and the Sustainable Development Goals, Human Resources for Health Observer - Issue No. 17(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの医療労働力要件と持続可能な開発目標、ヘルスオブザーバーのための人的資源 第17号). リンク:https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/250330/9789241511407-eng.pdf?sequence=1

[3] マラウイ共和国向けグローバルファンド資金。監査報告書。スイス・ジュネーブ:2016。リンク:https://www.theglobalfund.org/media/2665/oig_gf-oig-16-024_report_en.pdf