アクセシビリティ機能を有効化アクセシビリティ機能を有効化

「スイスチーズ方式」でCOVID-19封じ込めの第2のチャンス

55

この記事は、STATWebサイトに2020424日に掲載されたものです。STATからの許可を得て再掲載しました:https://www.statnews.com/2020/04/24/swiss-cheese-approach-second-chance-contain-covid-19/

15年前、H5N1鳥インフルエンザの脅威に立ち向かうために、ホワイトハウスの私のチームは、National Strategy for Pandemic Influenza(流行性インフルエンザ国家戦略)を策定しました。世界は、パンデミックの第1波、そしておそらく第2波を、ワクチンなしで乗り切らなければならないことを、我々は認識しました。

Richard Hatchett博士とCarter Mecher博士を中心に、 疾患モデルの研究者や主要な関係者と協力して、パンデミック曲線のピークの到来を遅らせ、その山を低くし、コミュニティの発症例の総数を減少させることを目的として、学校閉鎖やソーシャルディスタンスの確保など、早期の協調介入の戦略を策定しました。その2年後、我々はこのガイダンスを発表し、さらに今や象徴的にすらなったこのグラフもあわせて掲載しました。現在、この戦略は曲線の平坦化と呼ばれています。

RajeevVenkayya_533x300.jpg
ラジーヴ・ヴェンカヤ, グローバル ワクチン ビジネス ユニット プレジデント

flatten-curve_jp_03.jpg米国疾病予防管理センター「Interim Pre-pandemic Planning Guidance: Community Strategy for Pandemic Influenza Mitigation in the United States」より

戦略を説明するときは、学校閉鎖などの各介入を、1枚のスイスチーズのスライスとして頭に描くようお願いしています。1枚1枚のスライスが、ウイルスの感染に対する不完全なバリアであり、チーズに空いている穴が不完全さを示しています。パンデミック発生の初期に、スイスチーズのスライスを重ね合わせるように、複数の部分的に効果のある介入を組み合わせることで、チーズの穴(不完全さ)を埋めることができ、ウイルスの伝播を遅らせ、場合によっては食い止めることができます。

世界各国の政府が、COVID-19に対してこの戦略をもとにした様々な対策を実施しています。韓国は、特に効果的なスライス、すなわち強固な検査体制、接触者の追跡、隔離及び分離により成功しました。米国では、COVID-19の感染拡大に対し、国は重層的なアプローチを取って、病院にかかる危機的な負荷を回避し、人々の生命を救おうと努力してきました。これらの取り組みの効果は、ちょうど今、見えはじめたところです。

過去は変えられません。しかし、このウイルスを封じ込める第2のチャンスが我々にはあります。広く普及したstay-at-homeの外出制限で、最終的にはウイルスの感染を数週間前のレベルに抑え込み、疫学的な時計を巻き戻して再びウイルスの封じ込めが可能になるでしょう。

その時点で、以下の3つの対策を講じることで、もっとも厳しく制限されたソーシャルディスタンスを緩和し、都市封鎖を解除することができるのです。

全員がマスクを着用

布マスクは、着用している人をウイルスから完全に保護することはできませんが、COVID-19に感染している人から他の人への感染は防ぐことができます。疫学上の用語では、これを感染源コントロールといいます。米国疾病予防管理センターは、すでに外出時にフェイスカバーを着用することを推奨しており、自作マスクのDIY動画を公開しましたが、これは十分ではありません。単なる推奨ではなく、指令が必要です。全員が公共の場では布マスクを着用する義務がある、という指令です。これによって、コミュニティにおける感染を大きく減少させつつ、人々の外出も可能になります。さらに、症状のない感染者によるウイルスの伝播という厄介な問題にも対処することができます。

いくつかのアパレルメーカーがすでに布マスクの生産を開始しており、全員の着用が実現可能となります。ユニバーサルな感染源コントロールは、スイスチーズの非常に効果的な層となる可能性があり、その他の厳しい規制を緩和することができるようになります。

検査の普及

ソーシャルディスタンスの規制を緩和した場合、感染の発生を防ぐ方法は、検査、接触者の追跡、分離及び隔離によって、ウイルス感染者を迅速に特定し、それ以降の感染拡大を食い止めることです。これには、あらゆる場所での検査の普及が必要です。検査結果は、数日ではなく、数時間以内に判明しなければなりません。

これを実現させるには、人々が必要な時に必要な場所で検査が受けられる体制が必要です。ドライブスルー検査や臨時の特設検査センターなどが役割を果たすでしょうが、カーシェアや食品デリバリー並みの手軽さで人々が検査を受けられるようにすることも必要です。人材の雇用やトレーニングによって人手不足の保健所は増強されるでしょうし、それによって人々は業務に復帰することになるでしょう。医学的トレーニングを受けた人材が検体を採取し、適切な個人防護具を装着した軍の非医療従事者の支援のもと、接触者追跡を安全に実施し、自主分離及び隔離に関するガイダンスを提供することができます。短期請負労働を支援してきた技術プラットフォームを応用し、規模を拡大して全国規模で利用します。

適時検査の実現にもっとも重要なのは、一般の人たちです。人々が個人としての責任を果たすべき、という意識を自ら持つことで、必要な時に確実に検査が実施されるようになります。熱があるときに、反射的に体温計に手を伸ばすのと同じように、症状が発現したと同時に検査に行く、というのが理想的です。

そして、COVID-19を発症している場合は、自分自身を分離し、自分が接触した人々に自主的な隔離を依頼することが、新たな感染を防ぎ、自身でウイルス伝播の連鎖を断つことにつながるのです。

COVID-19の再燃への備え

アジアに目を向けてみると、社会的介入の緩和が、ウイルス拡散の再燃につながる可能性があります。これは、ワクチンおよび/または暴露歴によって、人々が十分に免疫を持つまで、リスクとなります。コミュニティの研究所で実施される検査結果や新規症例と既知の症例の関連付けができない場合など、社会的介入を復活させる場合の条件を、早期にそして十分に調整した上で定義する必要があります。すべてのコミュニティがこのような条件や措置を理解し、実行しなければなりません。

このCOVID-19パンデミックの波の後、我々は「ニューノーマル(新常態)」な生活様式や働き方をすることになるでしょう。これはパンデミック前の生活と比較して、我々を感染から保護する役割を果たします。まず、集会や移動が減り、職場でのソーシャルディスタンスは一層強化され、バーチャルでの交流が増えることが予想されます。このことは確実にパンデミック再燃のリスクを低減します。そして、もし我々が最初の2つのソリューション(マスクと検査)の実現に成功すれば、現在我々が体験しているような最も極端な措置は回避できます。

これらの介入は、スイスチーズの重ね合わされた層であり、感染の再燃を防ぎつつ、都市封鎖を解除することができます。これらの層により、秋、またはそれより早く到来するかもしれない、パンデミックの第2波の曲線を平坦化することができます。しかしもっとも重要なのは、ワクチン開発に必要な時間を稼ぐことができるという点です。