ニューロサイエンス(神経精神疾患領域)は、今後10年間に大きな変曲点を迎え、数々の神経系疾患の治療法に変革をもたらす可能性があります。遺伝的原因による乳幼児の死因のトップであることで知られる希少神経筋疾患、脊髄性筋萎縮症(SMA)については、近年、治療薬の開発が相次いで成功しており、新時代の幕開けを示しています。SMAの背景にある病態生理に関する理解が深まり、正しい治療仮説が得られ、標的組織へ治療薬を送達する技術が進んだことにより、米国ではSMA治療薬が3種類承認されるに至りました。
武田薬品は、SMAで学んだことを基本とし、ここ10年間に得られた遺伝学、プレシジョン・メディシンと革新的モダリティの進歩を活用するために、このほどニューロサイエンス領域の戦略を進化させ、標的や、疾患の背景にある機序に直接働きかけることのできる希少神経疾患に的を絞ることとしました。この戦略は既に武田薬品のパイプライン全体で展開されており、オレキシン2受容体作動薬の研究でナルコレプシータイプ1に対する有効性を示す初期知見が得られており、またドラベ症候群/レノックス・ガストー症候群の小児患者を対象としたsoticlestatの第II相ELEKTRA試験が行われるなど、成果が得られつつあります。
Sarah Sheikh, ニューロサイエンス治療領域部門ヘッド
武田薬品のニューロサイエンス領域で取り組む希少神経疾患のなかでも、神経筋疾患は重要な戦略領域と位置づけています。筋委縮性側索硬化症(ALS)で築いた研究基盤をもとに、ALS以外の神経筋疾患まで研究の幅を広げる大きなチャンスを手にしています。神経筋疾患の多くは、患者さんやご家族に多大な負担をもたらし、重大な身体障害や死に至ることのある疾患です。
トランスレーショナル研究や臨床研究のツールが大きく進歩したことで神経筋疾患領域の医薬品開発が発展し、武田薬品はこれらツールの構築に向け大きな投資を行ってきました。しかしながら、神経筋疾患の治療においては標的とする病変組織に治療薬を届けるのが困難であるなど、最適な治療薬の開発を妨げる様々な課題が残されています。これらの課題の克服を目的とするプラットフォーム技術は、様々な神経筋疾患への取り組みに活用できる可能性があり、大きなチャンスが得られる可能性があります。
これらの組織内分布に関する課題の解決に向け、武田薬品はこのほど日本のバイオテクノロジー企業であるペプチドリーム社と共同研究契約を締結し、神経筋疾患領域におけるペプチド-薬物複合体の創製に関する独占的ライセンス契約を締結しました。武田薬品のニューロサイエンス領域における長年にわたる創薬・開発の歴史と強みと、ペプチドリームの革新的なペプチド技術を活かすこの提携は、組織内分布を高め、希少神経筋疾患の革新的治療薬を創出することを目標としています。
武田薬品は、社内外の別を問わずイノベーションを推進し、自社の研究室での発見のみならず、バイオテクノロジー企業、他の製薬企業や世界各地の学術機関との連携で得られた発見についてもイノベーション推進に向けた活動を展開しています。神奈川県川崎市に本社を置くペプチドリーム株式会社との連携もこの活動の一環であり、神経筋疾患に対する高度に差別化された次世代治療薬の開発を目指して進んでまいります。ニューロサイエンス領域のリーダー企業として信頼されるパートナーとなり、患者さんやご家族に画期的な治療薬をお届けすることを最終目標として、私たちは活動を続けてまいります。