前述した松林のポルトガル出張は、準備期間を十分に考慮して、1か月以上前に上司から告げられた。育休復帰後で、1週間にわたる海外出張は初経験だったが、気づけば「行きます」と即答していた。「大急ぎで家族に事情を伝え、シッターサービスを調べるなど準備に奔走しました。出張中にも大変なことはありましたが、上司や同僚など周囲の理解とサポートを得て、無事に終えることができました。それまで無理と思い込んでいたことをクリアできた経験は、私にとって大きな転機となりました」。現地では世界中から集まった数百名の仲間たちと意見を交換し、事業の発展と会社のパーパス(存在意義)、そしてタケダが大切にしている価値観についてエシックス&コンプライアンスの面から真剣に議論したという。
さらに松林の活躍は続く。昨年、同じグローバル会議が開催された際に、企画メンバーとして参加したのだ。コロナ禍のため、半年にわたる準備も本番もすべてバーチャル環境であることに加え、時差のあるなか米国・カナダ・スイス・ドバイ・シンガポールなど国籍も文化も多様な企画メンバーと一つのプロジェクトを創り上げるという、ポルトガルでの経験とはまた別のチャレンジだった。会議の重要なセッションのリーダーをドバイのメンバーと共に任され、グローバル会議のスピード感や議論の仕方、意見の通し方などを実践とともに学んだ。「最終的には、“失敗したってまたやり直せばいい。困ったらプロジェクトメンバーも、上司も日本の仲間もみんな助けてくれる。とにかく最後にチーム全員で成功すればいい”というマインドセットのもと、プロジェクトを成功させることができました。
松林の所属するグループのみならず、タケダ全体として職場のダイバーシティが加速しているという。「中途入社、女性、若手の積極的な採用や起用、他部門からの異動など、キャリアの多様性が増しました。この加速とともに、誰もが育児や介護、通院など個別の事情や背景があるということが、相互認識としてだんだんと広まっていると感じます。気づけば私自身も、誰かの状況を属性だけで判断することがなくなり、ワーキングマザーという自身へのラベル付けについてもネガティブな捉え方をしていません。今まさにタケダが真のダイバーシティに向けて変化を遂げていることを実感しています」と松林は語る。
その点について、上司である松村も同様の認識を持っている。「私を含め、プライベートは千差万別。介護をしている人、病気や障害を抱えながら働いている人など様々な従業員がいるので、働くお母さんを特別意識することはありません。もちろんプライバシーは大切ですから無理に聞き出すことはしませんが、チームメンバーの置かれている状況をよく聞いて、各メンバーが成果をあげられる環境とはどういったものかを一緒に考えるように努めています。私にも家族がいますし、プライベートな所用などがある場合は遠慮なくチームメンバーに伝え、理解と協力を求めるようにしています。私が率先してチームメンバーを頼れば、チームメンバーも安心してお互いを頼れるようになると思うのです」と、チームの信頼関係を高める上で、リーダーである自分自身がチームメンバーに頼ることも大事だと話す。